ハッタリかまして内部監査室長として会社に潜り込み

自分はもともと大学卒業後、大手金融機関に務めていました。支店業務がほとんどでした。しかし、人間関係がうまくいかず、入行してから8年後の30歳のときに退職してしまいました。それからは塾の講師などをして食いつないでいましたが、苦しい生活が続いていました。

2009年頃、株式上場企業に対して監査法人が内部統制監査を実施することが義務づけられることになり、数百社にものぼる株式上場企業がいっせいに内部監査室長の中途採用を開始しました。自分は、なんとか社会復帰を目指して、手当たり次第に内部監査室長の求人に応募しました。とくに社内人材が不足している東証マザーズ上場企業が、内部監査室長を募集していました。自分は数十社にインターネットの求人サイトや人材紹介会社を通じて応募しましたが、10社目の応募でやっと書類選考を通過して、役員面接に進むことができました。

面接では、まず内部監査業務について質問を受けました。自分は、大手銀行に勤務していた頃に、同期の人間が内部監査室に配属されており、業務の話を聞いていたので、その話をそのまま話しました。内部監査業務なら、定期的に経理部の金庫の査察をしたり、総務部の取締役会議事録のチェックをすれば良いので楽勝だと思っていました。面接官である役員の反応は、無反応に近いものでした。そして、役員から内部統制監査業務について実務上の経験があるかと質問を受けました。自分は、内部統制監査については制度としてはこれから始まるので、もちろん経験はないと答えました。しかし、過去に大手銀行に勤務していたときコンプライアンス業務などの経験があるため、監査法人への対応の経験があると回答しました。すると、面接官の役員は、「仮に内部監査室長として入社してもらったら、内部統制業務はキミに任せることになるが大丈夫か?」と質問してきました。自分は「もちろんです。お任せください」と回答しました。内部統制監査の実務に関する本も、多数出版されており、本を読みながら仕事をすれば問題ないだろうと考えていました。内部統制監査対応の仕事は、机の上でひとりで仕事をしていれば良いと思っていました。そして、監査の時期に、自分がひとりで監査法人に対応すればよいだろうというレベルで考えていました。また、役員からは、「キミは銀行にいたんだから経理のこともわかるだろう?」と聞かれましたので、もちろんですと回答しました。

3日後、採用通知をメールでいただきました。最終面接の社長面接があるのかと想像していましたが、ありませんでした。

1ヶ月後、内部監査室長として入社しました。最初に自分に振られた仕事は、内部統制監査に対応できるようにするための社内のリスクの洗い出しでした。そして、リスクを洗い出したあとは、そのリスクに対応するための社内のフローチャートを作成することでした。この仕事は、常時、監査法人の公認会計士と連携し、内容の擦り合わせが必要でした。それと同時に、経理部を抱える管理本部との連携も必要な作業でした。また、営業本部やシステムエンジニアを抱える技術部との連携も必要でした。ようするに、内部統制監査対応の仕事というのは全社的な観点で、上手に立ち回ることが求められる仕事だったのです。

私は入社して日が浅いなか、各部署を回って、会社の業務内容とリスクについてヒアリングを行いました。そして、リスクの一覧表を作成して、監査法人にチェックを依頼しました。すると、監査法人からは、何ヵ所かの不備を指摘されるようなことが、何度かありました。また、管理本部からも、自分が作成したリスク一覧表についてクレームが入るようになりました。そして、その後のリスクに対応するためのフローチャートを作成する段階になって、再び監査法人や管理本部から自分に対してクレームが入るようになりました。つまり「あなたには、内部統制の仕事は無理ではないか」というクレームでした。

自分は、面接官だった上司の役員から呼び出されました。「キミは、お任せくださいと言ったが、全然できないじゃないか。」とストレートに言われてしまいました。自分は、少々背伸びをして面接では回答してしまったと白状しました。幸い、自分は解雇はされませんでしたが、その後の内部統制対応業務の主導権は、管理本部長に握られて、自分は内部監査室の課長へ降格となってしまいました。